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キンコマンズ=いとうさとしの絵とナッティフィルムの写真ほかのレビューも読む(URL)
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いとうさとし(絵)とNATTY FILM(写真)からなるコラージュ・ユニット、キンコマンズによるグラフィックワークを掲載する。ユニット名は、彼らがスタジオとして利用しているキンコーズ(オンデマンド印刷の全国チェーン)に由来する。深夜のキンコーズに大量の素材を持ち込み、一枚80円のセルフコピー機を専有し、写真を切り貼りし、ときには燃やし、スクラッチ──原稿台を開いたまま写真をスキャン、その途中で写真を擦って動かす。一回限りのチャンス・オペレーション──など、店に対するその他いろんな迷惑行為をしながらコラージュをつくる、それがキンコマンズである。曰く、「キンコーズのお兄ちゃんに白い眼で見られる」。
本作《ゆりちゃん》(2016)は地方でやっていたインド展(詳細不明)で撮影した写真を背景に、マゼンタでモノトーン・プリントした〝ゆりちゃん〟(作品中央、彼らの知り合いの女の子、とのこと)を重ね、いとうさとし手描きのフレームを配した一品。上記のようなチャンス・オペレーションによる諸作品とは異なり、極めて落ち着いた作品に仕上がっているが、不穏さは格別である。
キューブリックの『2001年宇宙の旅』での宇宙船が廃墟になったらかくや、と言えなくもないような不穏さ。その眼で見てみるとほら、段々とフレームの抽象模様が宇宙に吸い込まれるロケットに見えてくる。あるいはゆりちゃんの背後にあるのは、90年代サイコ・スリラー調の緑がかった色温度で映される金庫扉なのだろうか? すると彼女はケイパー・ムーヴィー(金庫破り映画)のヒロインか。
ゆりちゃんが宇宙に向かうワンシーンなのか──内宇宙への道はどちらか?(J.G.バラード)──、金庫破りに臨む直前の胡乱な表情を流し撮ったショットなのか──たぶん彼女は、この強盗の失敗が宿命づけられていることを理解している。それでもなお、これからそれに臨むのだ──、ぼくは知らない。いずれにせよ、見つめているとさまざまな妄想が浮かぶコラージュではある。キンコマンズは気まぐれに都内や湘南で展示をやっていくそうなので、ぼくは次も見に行こうと思う。ウェブなどは無さそうだからレトリカ経由での告知を待ってみてくれ。[文=太田知也]