[review] Rhetorica Review

Hiden|「生活」から「休憩[フリータイム]」へ──『ラブホのマドリ』から考えるこれからのすまい

DESCRIPTION

レビュー対象=水谷秀人『ラブホのマドリ』Hiden=1994年東京生まれ。慶應義塾大学SFC在学中。初出=Rhetorica #03(URLほかのレビューも読む(URL

Fig.01

『ラブホのマドリ』書影

hiden_11.住み方の変容
 戦後長いあいだ、日本の住まいのほとんど全てが「nLDK」で表現されてきました。リビング、ダイニング、キッチン、浴室、トイレ、そして寝室。これらは住まいを構成する上でたいせつな要素です。しかし、その全てが揃わなくても、わたしたちの暮らしは成り立ちつつあります。
 たとえば、炊事。キッチンがなくとも電子レンジさえあれば、コンビニのチルドや冷凍食品が食べられます。また、宅食サービスを使えば、健康でバランスのよい食事を選ぶことも可能です。洗濯はどうでしょう。近年、都市部では洗濯代行サービスが登場しています。洗濯・乾燥はもちろん、集荷や配送、好みの洗剤による洗濯が可能な業者もあります。
 わたしたちの手から家事が離れつつあるにもかかわらず、依然として日本の住まいにはキッチンや洗濯機の置き場所など、家事のためだけの空間が残されています。しかし、忙しい生活の合間を縫って炊事や洗濯、掃除をこなす暮らしを取り戻すのは、もはやわたしたちにとって酷なことではないでしょうか。
2.住まいが変わるとき
 このような状況のなかで、住まいに求められる要素はなんでしょうか。それはまずもって「ベッド」です。今や台所(K)はコンビニや外食によって代替されつつありますし、リビング(L)やダイニング(D)は、ベッドひとつあればその機能を代替できます。住まいの中心はベッドの上に向かうはずです。
 そんなベッドの上の居心地をよくするために、ヒントになる建築空間はないものか。そのように考えたとき、「ラブホテル」がわたしの頭に浮かびました。
3.ラブホから学ぶこと
 ラブホテルは、他のタイプのホテルとは異なり、客室の大部分をベッドと浴室が占めています。もちろんダイニングもキッチンもありません。何より、ベッドの上であらゆる用事を済ませることのできる空間なのです。そこでわたしは、ラブホテルの客室の間取りや写真を不動産広告風にまとめた「ラブホのマドリ」という本をつくりました。まずはラブホテルと住まいのあいだに補助線を引こうというわけです。
 住まいは「生活」の空間から「休憩[フリータイム]」の空間に変わりつつあります。「生活」が弱体化するなかで、いかに濃厚な「休憩」を取ることができるか。わたしたちの生の質を高める近道はそこにあるのではないでしょうか。