[review] Rhetorica Review

tomad|POP IS OVER

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レビュー対象=NON POP MAG.tomad=1989年生まれ。ネットレーベル「Maltine Records」主宰。DJ・イベントオーガナイザーなど。@tomad(Twitter)初出=Rhetorica #03(URLほかのレビューも読む(URL

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「NON POP MAG.」 http://nonpopmagazine.blogspot.jp/

02

「2016年のスタイル模索1『80'S JAPANESE NEW AGE / AMBIENTの再評価』」2016.1.1 http://nonpopmagazine.blogspot.jp/2015/12/201680s-japanese-new-age-ambient.html

 「インターネットが縮めた距離を、インターネットが開いてく今日も」という歌詞にすら斬新さを感じなくなった昨今。
 彼とは「路地裏音楽戦争」という音楽系まとめブログで出会った。その時は何も意識することなく、こういう音楽系2chまとめサイトもあるのかとさらっと見逃していた。
 そんな彼に注目しはじめたのは、「路地裏音楽戦争」が終わって新しくはじまった、彼を中心とする数人で運営されていたブログ「Hi-Hi-Whoopee」だ。「路地裏音楽戦争」で扱っていたメジャー路線とは違う、インターネットの奥底に眠る尖ったポップを紹介するブログで毎回そのセレクトに刺激を受けた。
 特に日本の高度経済成長期のヴィジュアルイメージとアンダーグラウンドなアティチュードがネットのアカウント上で一体となった「VAPORWAVE」ムーブメントに早くから注目していて、先陣を切ってコンピレーションを企画するなど、音楽ブログを超えた1つのカルチャーとして自立していた。
 アクセス数も伸びてブログも有名になってきた時期に、彼は唐突にブログを辞めた。きっかけは東京に上京していた共同運営者のとあるメディアに掲載されたインタビュー記事だった。地方に住んでいた彼は「結局、美味しいところは都会の人間が持っていく」「共同運営者だけがメディアで注目されて自分はもうこのブログに必要ない」と思ったのか、この出来事の直後にブログの更新を停止する。
 正直なところ東京で活動してきた僕にはあまりピンと来ていない話だったが、地方在住のリスナーがインターネットと向き合うナイーブさが垣間見えた瞬間だった。
 僕がマルチネ10周年本を企画した時も無理を承知で寄稿を依頼した。「“ポスト・インターネット”を掴め!」と題されたその原稿は、誰でも気軽に創作が出来て全世界に発信できるようになったポストインターネット以後の環境を論じながら、彼自身もその創作へと向かう様子がピュアに書かれていた。
 彼はいつの間にか音楽を作る創作者になっていた。活動を追ってみると、いくつかのアンダーグラウンドな海外レーベルからリリースしてもいるようだ。だが、そんな創作活動が盛んになってくると彼のSNSとブログはいつのまにか消えていた。創作者としての彼よりも、リスナーでありブロガーの彼のが好きだったので、またブログが消失してしまったかと残念に思った。
 そんなことがあった矢先、いつものようにSoundCloudを漁り、気になった曲にLikeを付けている人の一覧をチェックしている最中に、あるアカウントのプロフィールから「NON POP MAG.*01」というストレートなタイトルのブログを見つけた。そう、それはSNSや個人ブログを完全に辞めてしまった彼が2016年から新しくひっそりとはじめていたブログだった。インターネットミュージックの最底辺を徘徊する者は少なく、何かに引き寄せられたように、出会いがしらに、顔も見合わせずに衝突してしまうのだなと、そのカルマの大きさを感じた。
 この他人を寄せ付けないような文章はあの全盛期の頃の「Hi-Hi-Whoopee」を思い出すようでワクワクした。目の付け所も素晴らしくて、2016年1月1日、このブログ1発目の投稿となる「80’S JAPANESE NEW AGE / AMBIENTの再評価*02」は、プラスチックな質感のインターネット音楽を超えていく新しい流れを察知するようなタイムリーな内容になっている。さらに「民謡」についての考察や「PCゲーム」の話など、音楽からさらに視野を広げる項目もあり読んでいて飽きない。
 読み進めていると、誰に向けて書いているのでもなくて、彼自身を立たせる為に書いているようにも思えてくる。どんな目線からこんな言葉を発しているのかわからないのだが、新しい音楽に飢えている人は一度このブログにアクセスして記事を読んでみて欲しい。