アジアの音楽のこれから Jun Yokoyama 今回は国際交流基金・アジアセンター主催のイベントということで、「アジアの音楽のこれから」というテーマで色々トークしていきたいと思います。アジアの中でも、特に普段知る機会の少ないASEAN諸国の音楽をどんどん紹介していきましょうという企画ですね。メンバーは渋谷のレッドブルスタジオから月に1回配信しているインターネットラジオ「ポコラヂ」から、tomad、てぃーやま、Jun Yokoyama、Tomoya Matsumotoの4人でお送りします。普段の番組でも毎回色んなゲストに来てもらって音楽を紹介しているんですが、今回はその出張編ということで。
一同 よろしくお願いします。
Jun Yokoyama それでは今から1時間で、tomadさん・てぃーやまさんにアジアで見聞きした音楽をどんどん紹介していってもらいたいと思います。松本さんは書記的な感じで。あとで記事にもなると思いますので。まずは一言でアジアの音楽といっても色々なので、どんなものを紹介してくれるのか簡単に説明してもらえると。
てぃーやま えっと、僕とtomadは普段プロジェクトで東南アジアの国に行くことが多いんですが、今回紹介するのもそこで見つけたものが中心になります。まず前提として、ここでの「アジアの音楽」っていうのは民族音楽とか土着の音楽とかってことじゃなくて── tomadがやってる「マルチネレコード」にも関わる部分なんですけど── 僕ら基本的にエレクトロニカとかヒップホップみたいな音楽に関わることが多いので、そういう音楽が中心になります。なので今回のタイトルも(民族音楽を想起させる) 「アジア音楽」ではなくて「アジアの音楽」にしていたり。Higher Brothers── 中国/グローバル/ヒップホップ てぃーやま まず一番初めに、アジアで最近盛り上がっているヒップホップをちょっと紹介していこうかなと。
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[Higher Brothers ft. Keith Ape – WeChat (Official Video)]
てぃーやま これって流してる途中にどんどん喋った方が良いのかな。
Tomoya Matsumoto 解説欲しいっすね。
てぃーやま えっと、今流してるのはHigher BrothersとKeith Apeっていう2人のアーティストがやってるWeChatって曲です。このアーティストがどういう位置付けなのか……っていうのをtomadさんに聞いても良いですか。
tomad まず「88rising」っていう、アジアのヒップホップを紹介するウェブメディアが1年半くらい前に開設されてて── それはここにも出てる韓国のラッパーのKeith Apeや彼の周辺の人間がやってるメディアなんですけど。そこでトラップ以降の新しいヒップホップを吸収したラッパーをガンガン紹介してて。で、Higher Brothersっていうのは中国のラップグループで、そことのコラボという形で作られた曲ですね。
てぃーやま これはなんで重要なんでしたっけ。
tomad ……なんで重要なの?
一同 (笑)
てぃーやま ジュンさん何かあります?
Jun Yokoyama あの、まあWeChatってアプリがあって── (客席に) ご存知の方いらっしゃいますか?…1/3くらいですねえ。
tomad LINEみたいなもんですよね。
Jun Yokoyama そう、中国のLINEみたいなアプリがあって。この曲もイントロで「中国にはインスタグラムもフェイスブックもツイッターもない」ってシャウトから入ってるんですが、要するにWeChatならではのあるあるをラップしてる曲なんですよね。わりと最新のラップの音楽を使ってラップをしてたり、そういうのも含めて自分たちはこんな感じでやってるんだぜ、みたいなことを紹介している曲です。
てぃーやま なんでこれを最初に持ってきたかというと、彼らが最初から中国のマーケットではなく、「88rising」のような欧米に向けられたメディアに向けて曲をリリースしていることが重要だと思ったからですね。彼らはそれまで本当に無名っていうか、デビューもしてないようなヒップホップのラッパーたちだったわけですが、急にそのメディアにフックアップされていきなりアメリカで売れたり。そういう流れが今は出てきてて。
Jun Yokoyama おおー。
Tomoya Matsumoto この人たちは何歳くらい?
てぃーやま 僕らより全然若いと思う。20代前半とか?
Jun Yokoyama もうYouTubeでは300万回再生されてまして、Spotifyとかでも聴くことができるんで、是非気になった方やヒップホップ好きな方は聴いてもらいたいなあと思います。tofubeatsさんも紹介してましたよね。えっと、確か関ジャムで。
tomad 関ジャム(笑) ポップなワード出してくるっすね。Jay Park── 韓国/アジア代表/R&B Jun Yokoyama はい、じゃあ次の曲を紹介していきましょう。
tomad 行こう行こう行こう。
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[[MV] SiK-K, pH-1, 박재범 – iffy (prod by. GroovyRoom)]
てぃーやま 同じような軸で、今度はR&B。これはJay Parkっていう韓国のR&Bのシンガーで、アメリカでも徐々に売れてきてて、最近Roc Nationっていうアメリカの大きなレーベルと契約した人なんですけど。この曲は彼とその周りのアーティスト達による「iffy」っていう曲です。さっきの中国のヒップホップもそうなんですけど、アメリカで結構普通に売れてるアジア系のアーティストがここ2年くらいで急にどんどん出てきているという状況があって。まずそういう状況があるよっていうのを頭のどこかに置いといてもらえたらなと。
Jun Yokoyama J-POPとは結構状況が違うわけですね。
てぃーやま そうですね。日本は本当にいろんなアーティストがいて、いろんなジャンルがあって、レベルも高いと思うんですけど、やっぱりアメリカとか西洋世界には全然売り出せてないっていう状況がある。
Jun Yokoyama このJay Parkっていうアーティストはもともと、2PMっていうK-POPの非常に有名なアイドルグループで活動してたんですけど、色々あって辞めてアメリカに行って。そこで本格的なR&Bをやろうってことで、自分たちでレコードレーベルを作ったりもしてます。今ではもう日本でもライブなかなかできないくらい売れちゃいましたね。なかなか日本のメディアで取り上げられることもないんですけども、アジア発のグローバルスターじゃないですけど、大注目アーティストなんで、是非。
てぃーやま 彼がRoc Nationと契約した時にインスタグラムのポストで、「これは韓国とかアジア系アメリカ人が音楽業界で頑張ってきたことの一つのアコンプリッシュメント(到達点) だ」的な…つまりなんかこう、よくあるヒップホップの文法ではあるかもしれないけ、かなりデカイことを背負っている風に書いてて。
Jun Yokoyama へえー。
てぃーやま そういうのもあって、外から見たときにすくなくともアメリカにおける「アジアの音楽」を背負ってるのは全然日本じゃないなって感じて。Meuko Meuko、Howie Lee── 中国/文化の自覚的な再利用/エレクトロニカ てぃーやま ここまでがいわばイントロダクションで、こっからはtomadさんにアジアのなんかちょっと面白そうな、今後表に出てきそうなアーティストを紹介していくっていう感じでやっていきたいなと。
Jun Yokoyama ここまで紹介してくれたやつはアジア発で海外でも売れてるけど、今からはもうちょっとアンダーグラウンドな感じでってことですね。
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[Howie Lee & Meuko Meuko – 祝福你]
てぃーやま 聞けばわかるけど、もうどんどん不穏になってくるんでね。
Tomoya Matsumoto すごいなあ(笑) みんなでMMDを色々いじって遊んでた頃のニコニコ動画っぽいというか。
tomad これはMeuko Meuko(ミュコミュコ) 、あとHowie Lee(ハウイーリー) っていうアーティストの共作で……字幕なんて読むかわかんないですね。中国のDo Hitsっていうレーベルを代表する2人の楽曲です。
てぃーやま ……え?それだけ?
tomad 終わりっていうか、まあ(笑) なんかこういう3DのPVを結構大量に出してて。で、Howie Leeは元々中国でポップスとかを作ってたらしいんですけど、最近はトラップ以降の…なんだろうな、ビートミュージックみたいなものを主に作ってて。中国の銅鑼の音色とか、そういう民族的な音色をわざと取り入れてトリッキーに見せてるっていう。
Jun Yokoyama たしか北京ですよね?
tomad そうっすね、ハウイーリーは北京です。ミュコミュコは台湾。
Jun Yokoyama 女性のDJ・プロデューサーの共作ですね。にしてもすごいPV。
tomad そうっすね。で、これたぶん結構パロディとしてやってるというか、中国のポップソングに寄せた作りになってる曲です。
てぃーやま なんか、彼のインタビューみたいなのが結構ネット上にあがってて、かなり意識的にいろんな文化からコピーをしてたり、「西洋から見た中国・アジア」っていうのを強く意識して作ってるって自分で言ってて。さっきのアジア背負ってるっていう話じゃないですけど、中国もそういう意識の強い洗練されたアーティストたくさん出てきてますね。
Jun Yokoyama 海外がイメージとして持ってる中国っていうのを、もう一回自分たちで使っていくことで、アイデアや面白さをそこにプラスして、自分たちの音楽として組み立てていくってことですかね。
てぃーやま そうっすね。“cultural appropriation”って言葉があるじゃないですか。日本語で言うと……文化の盗用?みたいな。ある文化の一部分を、その文化の外にいる強い立場の人が、ときに無自覚に都合よく利用するっていう。例えば西洋人がこのPVみたいなものを作って「中国おもしれぇ」みたいなことを言うと、すごい叩かれたりするわけです。借用先の文化やシーンに対してリスペクトが足りない安易な借用はダメだし、しかもそれが商業的にやられるのはもっとダメだと。カルチャーシーンにおいても、世界の人々はそういったことにすごく配慮し始めている。
Tomoya Matsumoto 大衆的・商業的な文化においてもそういう意識が高まってってると。
てぃーやま で、その中でもこの二人は中国人だからこそできる中国文化の再利用みたいなことをやってて── つまり中国文化のダサい所をキッチュに作り直して、西洋人が見たときに「え、こいつら狂ってる?」ってなるように意図的に作ってるように見えてそこが面白い。
Jun Yokoyama なるほど。
てぃーやま いま新美術館とか森美でやってる「サンシャワー」とかこの前やってた「ドクメンタ」とかでも、移民や文化のすれ違いの問題に関して「どっちがオリジナルか/誰が何を言ったら正しくて誰が何を言っちゃいけないのか」みたいな問いにフォーカスが当たっていて。中国人がやるからこれがいいんだっけ、これって誰の視点から見たら面白いんだっけっていう疑問を持ちながら今あそこに見えてるアートナイトのアジア関連の作品やサンシャワー展のとかを見ていくとたぶん面白いんじゃねーか、とか……。
Tomoya Matsumoto このPVはちゃんとそういう複雑なコンテクスト込みで受け入れられてるの?
てぃーやま うーん、ジュンさんどうですか?
Jun Yokoyama そこまでたくさんの人が聞いてるわけじゃないと思うけど、面白いなあと思ってる人は多分理解してる。まあ新しいですよね。
てぃーやま でもVICEとか、いわゆるイケてるカルチャーメディアみたいなので結構取り上げられたりとか、それこそヨーロッパにツアーに行ったりとか?
Tomoya Matsumoto なるほど。
Jun Yokoyama ハウイーリーさんとミュコミュコはたまに日本でもライブをしてるんで足を運んでみてはどうでしょうか?X0809── バンコク/イケてる女子/エレクトロニカ VIDEO
[X0809 -“-30”]
tomad 次に流すのはX0809の「-30(マイナス30) 」って曲で……僕がタイのバンコクで知り合った二人組アーティストで、そのうちの一人がニューヨークに留学してて、ニューヨークにいる知り合い経由で知りました。なんか結構先鋭的なエレクトロニックなポップスをやってて。最近になってバンコクに戻ってきて、タイでイベントを始めたりだとか、タイのクラブシーンとかで徐々に活躍してきて注目を浴びてる女子2人組ユニット、みたいな。
てぃーやま 女子?
tomad そうっすね、かなり女子で……
Jun Yokoyama かなり女子ってどういうこと(笑)
tomad この1人が20歳くらいの時にタイのリアリティーショーに出てて、結構国民からすでに注目を浴びてて。
てぃーやま なるほどね(笑) テラハに出てたやつが作ってたみたいな感じね。
tomad そうそう。で、タイのメジャーレーベルから1回デビューしてたけど、メジャーがクソなことやらせすぎたとかでブチ切れて。それでニューヨークに留学して、そこでこういうエレクトロニックな成分を吸収して、で今タイに戻ってきて2人組で活動しているっていう。
Jun Yokoyama すごいですねえ。これ映像も。
てぃーやま でもあれですね、さっきの中国のアーティストとかと比べるともうちょっと…なんていうんだろうな。そこまで変ではないじゃないですか。
tomad まあ変じゃないっすね。たぶんあんまり見え方とかは考えてなくて、普通に彼女たちなりにイケてるのをやるぞっていう感じっすね。
てぃーやま はいはい、なるほどね。
Tomoya Matsumoto これは打ち出しの方向としてはタイ国内向けなんすか?
tomad いや、グローバルなシーンに向けてると思うんですけど、でもこのビデオとかはタイの制作会社みたいなのが入ってるっぽいですね。いずれにせよ、自分たちの世界観をそのままアジアでも関係なく出していくっていう。similarobjects── マニラ/コレクティブ/エレクトロニカ VIDEO
[similarobjects live forest jam]
tomad 次はフィリピン・マニラのアーティストで、similarobjectsって人がいまして。音楽的にはエレクトロニックなビートものみたいなのをやってるアーティストで、本名はJorge(ホルフェ) って言うんですけど、一回マニラで会ってきました。自分でもBuwanBuwan Collectiveっていうレーベルをやっていて、それが今マニラの若手エレクトロニックアーティストを集めた代表的なレーベルになってたりとか。あと普段は大学で音楽を教えたりもしてたり、自分でDTMの学校みたいなのを開いて若者にDTMを教えたりとかしてて。マニラっていう場所のエレクトロニックなシーン全体を盛り上げようとしている結構珍しいタイプのアーティストなんですよ。マニラのエレクトロニックシーンだったらこいつに聞け、みたいな感じのアーティストになってますね。
Jun Yokoyama へえー。ご意見番的な。
てぃーやま マニラのtomadです。
tomad (笑)
てぃーやま このマニラのアーティストもそうだし、あと僕らがアジアセンターとやらせていただいてるプロジェクトでインドネシアの都市でアーティスト達に会った時もそうなんですけど、なんかこう東南アジアのアーティストとか活動してる人たちに共通する点として、コミュニティを作ろうとする機運みたいなのがあって。
Jun Yokoyama はい。
てぃーやま 例えば日本だと、すぐこう…例えばこの4人とかでも、僕らは「1人1人頑張ってます、ウッス」みたいな感じですけど、インドネシアとか行くと「なんとかコレクティブだ!」とかすぐ言ってグループを作って、ワークショップとかを自分の家とかでやったりする。で、DTMのやり方を子供に教えたりとか、ノイズミュージックの啓蒙をしたりとかしてて。
Jun Yokoyama ヘー!
てぃーやま 東南アジアで音楽とかアート的な活動に従事する人はすごいそういう、コミュニティへの貢献とかエデュケーションみたいなことをみんなよく考えてるなあと。
Jun Yokoyama どうしてそういうことをするんですか?
てぃーやま どうしてなんだろう……なんか向こうの人と話した感じだと、元々すごいそういう…なんていうんだろうな。近くの人で近所で集まるとか、井戸端会議?的なのがまず文化としてあると。で、なんかこうアートとかやる時もそれはもう不可欠だ!みたいな適当なこと言ってたんですけど。
tomad あ、10月の27日くらいに、マニラでそのBuwanBuwan Collectiveとマルチネの共同のイベントをやることになりました。
Jun Yokoyama へー。マニラでイベントをするんすか。
tomad マニラでイベントをやります。
てぃーやま でもすごい楽しみですね。マルチネと僕らでも一度ロンドンで公演をやったり、ニューヨークでショーケースをやったりSXSWに行ったりもしたんですけど、どの国行ってもやっぱりお客さんの反応や現地アーティストの交流の仕方が全然違ってて。それがすごい面白いんで、今回マニラでどういう風になるかなっていうのは期待してます。
Jun Yokoyama なるほど。
tomad でも、全然なんだろう、クラブミュージックみたいなのは、この一回マニラに前に行った時にDJさせてもらったんですけど、やっぱり英語圏っていうこともあって、すごいUSとかのミュージックが…
てぃーやま USとかのミュージックがね(笑)
tomad すごい直で入ってきて。それこそみんなDrakeとかにすぐ反応する、みたいな。
Jun Yokoyama あー、なるほど。だから東南アジア諸国でFMラジオをつけるとアメリカで流行ってる、USトップ40みたいなものが普通にかかってて。歌詞も普通に理解できてて、みたいな。
tomad そう、そうなんすよ。ただ現地の音楽みたいなの…というか日本でいうJ-POPみたいなのがそもそもなくて。だから逆にそういうのもやっていかなきゃいけないんじゃないか、みたいな問題意識を持ってるアーティストもいたりします。KimoKal── ジャカルタ/無国籍性/エレクトロニカ てぃーやま 次紹介するのはジャカルタに僕らが行った時に実際に訪れたDouble Deerっていうプロダクションみたいなのがあって、そこが音楽レーベルもやってて、そこに所属するKimoKalっていうアーティストなんですけども。
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[KimoKal – Lonely Child]
てぃーやま 彼女たちとかだと、今まで見てきたアーティストとかよりも全然普通……普通っていうか、なんていうんだろうな。
tomad なんかあんまりインドネシアの国の影響を出そうとかじゃなくって、それこそYouTubeとか色々ネット環境があって、インドネシアにいながらも西洋とかの音楽の影響をそのまま受けてて、じゃあ自分たちもやってみよう、みたいな。
てぃーやま そうですね。だからビジュアルとかもさっきの中国のとかに比べると、全然これはどこの国かわからないじゃないですか。EDMとかいわゆる音楽のグローバリゼーションの影響を普通に受けて、その結果として音楽活動をしている人たちもいるっていう例ですね。レッドブルとかとも一緒に仕事をしたりしていて、20代の子達が20人ぐらい集まって作った会社?で、そこがレーベルもやってると。
Jun Yokoyama うーん。まあなんか、感じのいいエレクトロニカって感じですもんね。ボーカル入りの。すごい聴きやすいというか。
tomad そう、そうです。
てぃーやま まあ逆に引っ掛かりがないとも言える。
Jun Yokoyama どの国のアーティストなのかはわからないですよね。キモカルって名前は、キモいっていう意味じゃないですよね?
てぃーやま 「キモ・なんとか」と、「カル・なんとか」のユニットみたいな感じだった。
Jun Yokoyama あー、じゃあHALCALIみたいな。
tomad 普通にサウンドのクオリティは高くって。すごくよくできてる。
てぃーやま でも面白いなと思うのは……例えばさっきのワークショップやったり教育を頑張ったりしてる人たちって一見、グローバリゼーションとかはダメだ!僕らは僕らでやってくんだ!って言いそうじゃないですか。なんとなくイメージとして。
Jun Yokoyama コミュニティを大事にしよう的な。
てぃーやま そうそう。でも彼らはこういうエレクトロとかEDMとかのグローバルな影響をモロに受けつつ、ビジネスも真面目にやりつつ、さらにDTMのスクールもやってるみたいな。本当にめっちゃハイブリッドに活動をしてて。ここのオフィス行くと本当に若い人たちがめっちゃ多くて、20代の人たちが20人くらいガッと集まって「っしゃ!やりたいことやるぞ!」みたいな感じで。「とりあえずめっちゃ綺麗なオフィス建てました!」「仕事くださーい!」みたいな感じで。でもやってることは結構良くて。それを見てすごい勇気づけられたっていうか。
Jun Yokoyama へーーー。
てぃーやま 東京にいると20代の人で10人集まって会社やりましょう!とかってあんまりないし、やる気も起きないじゃないすか。でも彼らは例えば国の平均年齢とかも低いし、本当にこれから20代の人たちがインドネシアの文化を作っていくんだ、っていう気概がすごい見えて、僕はすごいエンパワーメントされました。
Jun Yokoyama なるほど。やってくぞ!みたいな気持ちがあるわけですね。
tomad 日本のディスクユニオンにも、CDをディストリビューションしてるみたいに言ってたんで。レーベルの活動もしっかりやってるみたいです。Ramengvrl── ジャカルタ/アジア多国籍性/ヒップホップ Jun Yokoyama じゃあ、次の曲を。アーティストを。
てぃーやま Ramengvrl(ラーメンガール) 。
tomad これ結構売れるんじゃないかっていう。あんま日本で全然知られてないと思うんですけど。
てぃーやま 絶対売れるっすよ、これ。僕らがジャカルタに行った時に本当に全然何も知らずに入った、なんてバーだっけ?
tomad んーと……Mondo。
てぃーやま インドネシアの音楽が大好きすぎる日本人のおじさんがやってるルーフトップバー。高速沿いのマジわけわかんない廃墟のビルみたいな……。
tomad 結構やばかったっすね。
てぃーやま 映画とかで、「ぴちゃん…ぴちゃん…」みたいなとこあるじゃないすか。そういう。
Jun Yokoyama いや全然伝わるけど、伝わんないっすね(笑)
てぃーやま まず入ろうとしてもドアとか壊れてて。「え、ここ大丈夫?」とか言いいつつ入ってくと、奥になんかでかいソファーに座ったやつが「オッ来たな」みたいな感じで居るわけ。
Jun Yokoyama うわー、もう明らかにやばい場所。
てぃーやま で、「お前は上だろ?」みたいなのをジェスチャーで。あ、じゃあ上行きます、みたいな。
tomad 上行ったらイケてるハウスミュージックみたいなのが流れてて。
てぃーやま そうそう(笑) ドゥン、ドゥン、ドゥン、つって。
tomad それで席座ったら、料理にカツカレーあって。
Jun Yokoyama (笑)
てぃーやま で、日本人の人に…名前なんだっけ、シュンさんだっけ?
tomad シュンさんだ、シュンさん。
てぃーやま っていう人に、「すいません、日本から来ました。」っつったら「オォー!」みたいな。すごい業界人みたいなおじさんがいて(笑)
Jun Yokoyama ほう。いくつくらいの人ですか?
tomad 3…40くらいかな?
てぃーやま なんかデザイナーで、先輩に騙されてインドネシアに来ました、みたいなこと言ってて(笑) そこで「いや最近めっちゃ来てる子がいるんだよ!明日リリースパーティあるから来なよ!」って言われて、その時にリリースパーティをやってたのが、ラーメンガール。
Jun Yokoyama ラーメンガール!
てぃーやま 最初はもう明らかにゲテモノだろって感じでマジ聞きたくねぇと思って「あーわかりました行きまーす」みたいに言って、で一応帰って調べたわけです。そしたらそれがいわゆるヒップホップR&B的な、グローバルで流行ってるようなサウンドを踏襲した音楽をインドネシアの女の子がやってるっていうプロジェクトだったんですよ。めっちゃ面白かったんで、ちょっと見て欲しいですね。
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[Ramengvrl – I’m Da Man]
てぃーやま あ、そう、で、このプロモーションビデオのリリースパーティーだったんだよね。面白いのは、ここまで色んなタイプのアーティストを紹介してきたんですけど、これはもう全部が混ざっててめちゃくちゃなんですよ。これどこ!?みたいな。日本?中国?みたいな。
Jun Yokoyama はいはい、確かに。後ろもあれですからね、韓国のあれみたいな感じですからね。
てぃーやま そうそう。で、名前「ラーメンガール」なの。最初にラーメンすすってるわけでしょ。で、インドネシア人なわけですよ。
Jun Yokoyama はいはい。で、しかも途中でね、アニョハセヨーって言ってましたよね。で、後ろには「またね」っていうネオンサインがあったりだとか。
てぃーやま おお〜っていう。VICEにも記事出てましたね。
tomad 88risingに出るのも時間の問題。
Jun Yokoyama 最近彼女のインスタグラムをフォローしたんですけど、なんかいろんなところに行ってライブしたりだとか。なんかどんどんどんどん活動のレベルが上がってきてるというか。
てぃーやま 対バン荒らしみたいな。
tomad なんか日本に来たいみたいに言ってたんですよね?
てぃーやま そうそう。Wok The Rock── ジョグジャカルタ/パンクス/ノイズ てぃーやま じゃあ最後は一番ハードコアだったジョグジャカルタについて……(笑) ジョグジャカルタはインドネシアのアートスクールとかいっぱいある地方都市で、「ジャカルタとかクソっしょ」みたいなスタンスのやつが無限にいる街で。そこでWok The Rockっていう、ジョグジャカルタのtomadみたいな人に会って。
tomad その人がYes No Waveっていうインターネットレーベルをやってて。アートフェスみたいなのも主催してるんすけど、もう完全なパンクスなんすよね。
てぃーやま こいつこいつ。やばくないですか、これ。2017年ですよ。[Wok The Rock]
Jun Yokoyama おお〜。すごいですね、あの革ジャンに鋲がたくさんついて、タトゥーが入って。前髪がちょっと垂れてる感じのオールバックみたいな。
てぃーやま そう。で、この革ジャンとか彼のデニムのジャケットには全部後ろに「Wok The Rock」って書いてある。
Jun Yokoyama でも彼は有名な人なんですよね?
tomad ジョグジャカルタのアンダーグラウンド音楽シーンをだいたい仕切ってる。
てぃーやま ドンですよ、ドン(笑) で、この人のホームパーティーで普通に座ってご飯を食べてたら、スッと横に座ってきてパッと僕にカセットテープを渡してきた人がいて。彼はそのまま何も言わずに去っていったんですけど、そんな男のノイズミュージックを今から聴いてもらいます。
一同 (笑)
[JNB04: To Die/Coffee Faith]
Jun Yokoyama なるほど。かなり謎ですね。曲名なんていうの?
てぃーやま To Die。このアーティスト?レーベル?の名前は「Jogja Noise Bombing」っていって、文字通りノイズ。これが延々と6分ぐらい続くっていう曲です。
Jun Yokoyama すごいですね、シークバー2分動かしても何も変わらないっていう。
てぃーやま なんも変わんない。
tomad たぶんこいつらにとっては、外に出すっていうよりもむしろこういうのをやるっていうこと自体が重要なんだ、みたいな。
Jun Yokoyama アティチュードなわけですね。
tomad 自分たちで音を発するぞ、みたいな。
てぃーやま (笑)
tomad なんかそういう部分に意味があるっていう傾向があったっすね、ジョグジャカルタ。
てぃーやま インドネシアの人と話してると大体言及される都市が4つくらいあって、まずジャカルタとバリ。まあバリは観光地だし、ジャカルタは東京みたいなでかい都市。それ以外にもカルチャーの中心になってる都市として、ジョグジャカルタとバンドゥンっていう2つの地域があって。さっき流したキモカルはジャカルタで活動していて、グローバルからモロに影響を受けたりしててやる気がめっちゃある感じ。で、ジョグジャカルタに行くと、こういうわけわかんないことを自分たちだけやってけばいいんだ、みたいな人たちもいる。だからインドネシアの音楽って一口に言っても、実は全然色々ある。態度としても、外に出て行く人は出ていけばいいし、出て行かない人は出て行かなくてもいいって感じで、僕はそれが健全だと思う。やっぱり日本だと外に出て行くっていう回路が今んとこ全然ないと思うから。
Jun Yokoyama なるほど。tomadさんは自分でレーベルみたいなことをしているわけですが、彼らから刺激を受けたりしましたか?
tomad それこそマニラのJorgeとか、BuwanBuwan Collectiveとかは、結構似たようなことやってるなと思って刺激を受けたりして。アメリカとかでも珍しいのに、マニラっていう正直全然音楽シーンがあるとも思ってなかったところで、似たようなことをやってるっていうのが。で、最近何が流行ってんの?って聞いたら「vaporwaveが今きてる」みたいな話があって。
てぃーやま 時間的なズレが若干ある。
tomad そういうのとか、実際行って関わってみないと分からなかったことがたくさんあったなっていう気はしてて、刺激はかなり受けてますね。Ryan Hemsworth── カナダ/アジアからの影響/エレクトロニカ てぃーやま まとめに入りますよ。Ryan Hemsworth。
彼自身は有名なアーティストなんですけど、アジアの変なアーティストとかを自分でサンクラで発掘して、Secret Songsっていう自分のレーベルからリリースしたりしていて。彼はカナダ人で基本的にアメリカで活動している人なんですけど、アジアからかなり影響を受けていて、よく日本にも来ていて僕らと一緒にイベントをやったりもしています。ポコラヂにも出てもらったり。
tomad ハウイーリーとかはSecret Songsから出してたりとか。
tomad マニラのno romeってアーティストも出してたりとか、結構幅広く。日本のアーティストでも、Carpainterがこの前出してたりしたっすね。
てぃーやま そんな彼の曲を1曲聴いてもらいます。…これ3年前くらい?
tomad 2年前くらいかな。これどこで撮ったんだろうね。
てぃーやま これ…どうなんだろうね。場所はアジアっぽいけど。映ってるのは本人。
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[Ryan Hemsworth – Snow In Newark ft. Dawn Golden]
てぃーやま 今日紹介してきたアーティストたちは、いわゆるグローバルなところから影響を受けて自分なりのスタンスで音楽をやっている人たち。で、逆にライアンはアジア圏からの想像力を自分の楽曲とかクリエイティビティに活かしてる。アジアの人たちが西洋に行くってことだけじゃなくて、実際にアジアのクリエイティビティから影響を受けて、アジアのアーティストをフックアップしようとしている有名なアーティストとかも出てきているということ。アジアとの交流/実践 てぃーやま ここまで色々アジアとグローバルシーンの関係を見てきた中で、じゃあ日本の音楽やJ-POPはどう位置づけられるんだろうと考えると、やっぱりなかなか難しいなと思っていて。
Jun Yokoyama ほうほう。
てぃーやま 日本の音楽が他のアジア諸国から学ぶことって本当にいっぱいあるんじゃないかなって思っていて。それで実際こういう国際交流基金のプロジェクトとかをやっているんですけど、「本当にやばいぞ」っていう危機感が彼らと交流していくうちに大きくなっていく。だからせめて自分たちの出来る範囲でアジアの人たちと交流をしていったりとか、西洋の人たちと交流をしていったりとかっていう活動を継続的にやっているし、今後もやっていきたいって感じですね。
tomad 今後もマニラでイベントやったりとかありますし、引き続きアジア圏のアーティストとかと交流していって、イベントだったりリリースだったりをできていけたらいいなとは思ってますね。マルチネとしては。
てぃーやま はい、そういうことで。じゃあ最後、1曲流して終わりますけど、紹介お願いします。
tomad えっとこれ、まだ未発表の曲で。マニラのmoon mask、ロサンゼルスのMeishi Smile、あと東京のLLLL(フォーエル) っていうアーティストがコラボした曲があるんですけど、それをパソコン音楽クラブっていう大阪のアーティストがリミックスしたものです。
Jun Yokoyama もう無茶苦茶ってことですよね。
tomad 近日リリース予定なんで。これを先行で流して終わりにしたいと思います。
[Meishi Smile / LLLL / U-Pistol – Always, (パソコン音楽クラブ Remix)]
[2017年9月30日── 於六本木ヒルズアリーナ]