texiyama 10月8日にMaltine Recordsの「大都会と砂丘」(@WWW/WWW X)があって、そこで初めて僕らが作った「Rhetorica#03」を販売しました。今日のポコラジではその関係者をゲストで招いて、振り返りをしたいと思います。そもそも「大都会と砂丘」って、変わったイベントだったよね。2つのステージ(ハコ)に「大都会」と「砂丘」っていう異なるコンセプトを割り当てて、その会場を行き来できるっていう。
tomad うん。そもそもWWWとWWWXっていう、ハコありきのイベントではあるよね。
森下 UNCANNYのインタビューでも答えたんだけど、2013年にWWWで「山」というイベントやらせていただいて、その時にWWWXがオープンするかもって話を聞いたんですよね。それでいよいよ2016年9月からWWWXがオープンするぞってなって、じゃあぜひマルチネで何か2つのハコを使ったイベントをやらせて下さいと。そういった経緯を含めると、「大都会と砂丘」は3年越しの企画って感じですね。
texiyama 最初から「大都会と砂丘」っていう名前は決まってたんだよね。
tomad うん。
texiyama tomadと僕と松本で「大都会と砂丘」のコンセプトを相談し始めたのって、いつ頃だったっけ。
tomad アメリカツアーから帰ってきてすぐ。今年の4月くらいかな。こういうイベントやる予定なんですけど、ちょっとお話してくれませんかみたいな。まだブッキングを決めてるくらいのタイミング。
松本 渋谷のカフェでずっと喋ってましたね。
texiyama なんか松本がイベントのコンセプトを作るために、区画整理みたいなのを書いてたよね。あれはどうやって生まれたんですか。
松本 texiyamaは「JACK vs MALTINE」みたいにツアーとかイベントをやったりしていて、既にマルチネと関わりがあったけど、僕は特に無かった。で、マルチネ的なコンテクストも知らない中で社長から相談を受けて、とりあえずマルチネ本を読みました(笑)。まず社長と話したのが、マルチネの10周年イベントだった「天」の後に何をやればいいんだろうってこと。でも、2016年はこれだみたいなトレンドは特に無い。でも、「予感はするよね?」みたいな認識はあった。そこらへんを曖昧にしつつ、WWWとWWWXっていう2つの場所を使ってイベントをやることの意味付けを考えていったって感じかな。そうやって区画整理をしていくというか。
tomad そうっスね!
松本 それで、まず最初に出てきた言葉が「ダンジョン」。来てくれたお客さんをWWWとWWWXっていう2つのフロアをダンジョンの中を彷徨うみたいに誘導させられるようにしたいよねっていう。だから、どちらかのフロアいくためには、必ずもう片方を通らなきゃいけないようにしようと。こういうイベントの現実的な運営の部分と、もっと抽象的なコンセプトをどうするかっていうのは平行して進んでいった感じがある。演者側へに対しては「大都会」/「砂丘」っていう、異なるカラーのコンセプトだけを与えておく。これは今回のイベントは10周年だ!みたいな分かりやすいものが無いので、こうやってあえて事前に役割を与えてみると良いんじゃないか──みたいな話はしたよね。
tomad そうですね。事前にこちらに企画とかコンセプトがあって、その上でハコをゼロから借りてやりますっていうわけじゃなかったから、何かやらなきゃいけないみたいな追い込まれ感はあって、どうそこでしっくりくるイベントができるのかっていう悩みはありましたね。マルチネのUSツアーから帰って来て色々考たんですが、考えるのは面倒というか大変な作業と言うか……。締め切りは決まってるし(笑)
松本 それを僕らにアウトソーシングしたんですね(笑)
tomad (笑)
松本 自分としては2つのフロアを使うことと、「砂丘と大都会」っていう名前は決まってたんで、個々のマルチネの文脈とか、アーティスト側に寄せてやっていくという感じではなく、その決まってた要素や制約に沿って考えていった感じ。一応2つの意味を込めていて、簡単にいうと1つはアーティスト側にさっきいった役割を与えて、それでどう振る舞うか、何が出てくるか。もう1つはオーディエンスの方で、フロアは2つに別れてるけど、イベントとしては1つに見せるということ。それは今回のイベントのWebサイトのデザインにもつながってる。
tomad そうっすね。レーベルとイベントの距離感みたいなものは微妙で、難しかったかなというのはありますね。分かれすぎてもいけないし、つながりすぎてもいけないみたいな。
texiyama なんかコンセプトは「スープとサラダ」とか言ってなかった?
tomad あった(笑)
松本 ああ(笑)。2つを1つに見せるのは、どうにか言葉で曖昧にできないかなっていうのがあって。砂丘というのは淡々としていて連続性があるもの。1つ1つがソリッドに出ているんじゃなくて、なんとなく混在しているみたいなイメージ。だからスープ。大都会はキラキラしたものが個別に点在しているんだけど、お皿としては1つにまとまっている。すなわちサラダ(笑)「大都会と砂丘」を振り返る松本 オーガナイザー側からすると、オーディエンスの雰囲気とかイベントの見え方って、こうなったらいいなみたいな理想があると思うんですよ。今回の「大都会と砂丘」については、「2つだけど1つのイベントに見える」みたいな理想があったわけだけど、イベントを振り返って社長はどうでしたか? 実際には結構分かれてたかなと思ったんだけど。
tomad まあでも実際には分かれては良いと思ってたんで。でも、来た人は2つに分かれていることを意識はするかなと。それも大事だなみたいな感じ。そう簡単に融合するみたいなのは求めていないし、それは難しいだろうなと。
松本 砂丘から大都会に移動したら、客層が違ってびっくりしたのは覚えてる。
tomad それに違和感みたいなのはなかったっすね。分かれるだろうなみたいな想定はあったし、1〜2割くらいが2つのフロアを移動すればいいかなと思ってた。あと、その分かれ方から今のマルチネの状況がよくわかったかなと。なんていうか、僕が思った通りの状況だったっていうのが、分かった(笑)。あまり2つが混ざったほうが良いとも思ってないんだけど、でも圧力が高くなった時に逃げるところがあったほうが良いなとは思ってたんですよね。例えばtofubeats見たかったんだけどすごい混んでるし、じゃあもう片方のフロア見るかみたいな人もいたと思う。そういう余剰のルートは用意しておけるみたいな。これって簡単なことのように見えて、イベントっていう水商売でやるのは結構難しい。
森下 最近複数の会場を行き来できるサーキット系のイベントあるじゃないすか。フェスもそんな感じだし。それとは違う感じはしたかったよね。
tomad フェスっぽくはしたくないというのはあったよね。3会場をまわるみたいな。
松本 なんか色々一緒にやってる中で、社長はイベントをあんまりコントロールできなくてもかまわないみたいなスタンスなんだけど、でもコンセプトはちゃんと作る人なんだなっていうのを思いましたね。
tomad 誰も作らなかったからやるしかないか〜みたいな感じかな。
松本 それはどういう意図?
tomad コンセプトがあるものをやらないと日常と変わらなくなっちゃうなみたいな感じ。変化を起こすにはこれくらいの準備をやらないといけないんじゃないかなっていうか。何も用意しなくてもお客さんはくるかもしれないけど、僕が満足する結果にならないかなと。逆に僕が満足する方向だけだとお客さんは来なくなると思うんだけど、それをギリギリの範囲で来るように、採算をとっていくみたいなのもある。広報もやりすぎてもよくないなと。
松本 広報はどうだったんすか。
tomad 今回はある程度ビデオとグラフィックとサイトだけ作って、それで来る人が来て欲しいみたいなかんじだったんですけど、イベントが近づくにつれて徐々に不安になってきて……。
松本 なんかイベントが近くなるにつれ、不安そうなツイートが増えていったよね(笑)
tomad それで急遽、会場の地図を作ってみたりとか……。なんかそういうせめぎ合いみたいなものはありましたね。
松本 オーガナイザーの社長から見て今回の「大都会と砂丘」はどれくらい上手くいったと思ってるんでしょうか。
tomad まだわからないっすね。なんかイベントのコンセプトとか、何をどうやってやればいいのかを考える期間が重要だったみたいな感じはあって。演者の方も「あれ、自分は砂丘じゃないのか?」みたいなギャップがあったと思う。どっちでプレイするかはこっちで押し付けているわけだから、大都会なのか砂丘なのかの境界が曖昧な人は「自分はこっちなの?」みたいな人もいたかな。
texiyama それって、誰かに具体的にいわれたの?
tomad 直接はいわれてないけど、「俺こっちか……」みたいな反応というか雰囲気はあったりして、それによってその人の意識が分かるなみたいなのはありますね。でも、イベントとしてはちゃんとやれたし良かったんじゃないスカ! 人も入ったし、赤字じゃないし。なんか今回は結構テクニカルなことをやったなと思いますね。前までのイベントは一方向にしか進まないし、方法は同じだけど、営業する数が増えていくみたいな感じだったから。それはそれの難しさがあるんだけど、手法は変えなくてよかったから楽っちゃ楽で、あとはどれだけ走り抜けられるかの勝負みたいになる。でも今回はゲームボードを1から作るみたいな難しさがあったなと。普段はマルチネイベントって今回みたいに2つに分けるみたいな設定とかしないし、今あるエネルギーを全力で集めて総力戦でやるしかないっていうか、イベンターとしては客こないとヤバイなみたいな(笑)
松本 そういえばコンセプトを考える時に「大都会と砂丘」はイベントのエンディングを分けたいっていってたよね。
tomad 一方向のイベントばっかりやってると、だんだん余裕が生まれなくなっちゃうんですよね。なんか遊びの余地みたいなのがなくなってるのは感じていたし、それがプレッシャーになるのは嫌だったから、マルチエンディングにすれば、ある意味逃げれる余裕ができるかなっていう気がしたんですよね。
森下 これまでのマルチネのイベントって、最後にtomadが出て胴上げして終わるのが通例になってたんだけど、「大都会と砂丘」では企画段階からそれはやめようと話してたんですよね。でもやっぱり「今回は胴上げないの?」みたいな声もあって、その気持ちはスゴイ分かるんだけど、それは内輪感しか出ないし、やめようと。
tomad それをやり続けることで先細りしそうだなと。
松本 マルチエンディングは上手くいったの?
tomad 僕はラストはokadadaの方(砂丘)しか見てないんだけど、大都会側は最後にbo enじゃなくて、DJ WILDPARTYが星野源で締めてくれた。変にどっちかだけが盛り上がってるわけででもなかったし、試みとしては成功したんじゃないかなと。あの日のtofubeatstexiyama 実際に「大都会と砂丘」を見て、さっきtomadが話してた「余裕がある」とか「逃げ場がある」っていうのはすごい成功しているなと思ったんだよね。僕個人としては特に砂丘のtofubeatsのステージが最高だったっていう感想があるんです。それで今回ゲストとしてお招きしました。
tofubeats よろしくお願いします。
texiyama 砂丘の日って、とにかくめっちゃ自在に見えたんですよ。前日にVision(SOUND MUSEUM VISION)に出演してたと思うんですけど、Visionでやることと砂丘のステージって求められるものが違うわけじゃないですか。Visionでやらなければいけないのは括弧つきのみんなが求めている「tofubeats」というか。でも砂丘のtofubeatsってのは、括弧つきになる必要はなくて、晴れ舞台でありながらすごく自在にみえた。それって最高だったなと。
tofubeats 実は砂丘の日のプレイが自由だったかっていうと、そういうわけでもないんですよね。マルチネのイベントかつ砂丘というフロアに立つことで、逆に普段Visionとかではやらないtofubeatsを期待されてるんだなと思うと、実はそこまであまり自由じゃないというか。逆にVisionのほうが自由なところもあったり。あと、自分は神戸が拠点だし、東京だとホームのイベントってないんですよ(別に神戸にホームのイベントがあるってわけでもないんですが)。
マルチネにしても所属しているわけじゃないから、イベントで自分のプレイが良くなかったらすぐ社長(tomad)にクビにされて終わりなわけですよね。それは社長と仲がいいとかは関係なく、プロとしては持ってないと行けないというか、意識せざるをえない。だから砂丘の日は「道」のエディットかけないとだめだろうなみたいなことを考えましたね。それで実際にかけてみんなエモくなってるのを見て、これは砂丘っぽいなと思いました。
texiyama なるほど……。
松本 ステージに立つ人を見る時って、texiyamaのようにこっち(見る側)が勝手にコンテクストを読み込んじゃってるわけですよね。そのコンテクストみたいなものが共有されているものと思ってると、他の人も同じようにステージを見てるような気がしてくる。でも、そういうコンテクストって、思い入れも混じってるから個人的なものであることが多いし、ステージとか会場ってそういうバラバラなコンテクストみたいなものが一同に集まる場所。こういうバラバラな思い入れとか視線みたいなものに対して、ステージに立つ側のtofuさんはどう思ってるんでしょう。
tofubeats 音楽を作るっていうのは、そういうのと向き合うことでもあるんですよね。例えば「朝が来るまで終わること無いダンスを」って曲は、社長(tomad)から「アルバムの最後に入れるいい感じの曲を作って」っていわれて、頑張って作ったんです。でも後になって、風営法に対するデモ曲みたいに受け取られてるようになってしまって……。「tofubeatsは風営法に反対しているんだ!」みたいになって、デモで曲は流れるし、シンポジウムにも呼ばれるみたいな。僕はそれを断ったんですけど、その時本当にヘコんだんですよね。僕の思ってることと、実際の受け取られ方ってこんなにも違うのかと。
でもメジャーだとこういうことって往々にしてあるんですよ。最近はそれを面白がっていくのがポップスであって、誤読できるような隙間をあえて作ってあげるのが大事なんだなっていうのが分かってきたんですよね。クラブでやる時もそういうのを大事にするようになったというか。さっきの「道」の話もありますけど、あれって最初作った時はすごい興奮してるんだけど、やっぱり段々と人のものになっていく感覚がある。最初の自分の思い入れみたいなものって、ある程度捨てていかないといけないこともあるなと。
松本 それって、誤読されたほうがいいというか、あきらめて逆に楽しむみたいな感覚なんでしょうか。
tofubeats やっぱり音楽の意図が100%で伝わることはないし、逆に伝わりすぎても嫌だなみたいな。逆に「僕は山をイメージしてこの花をいけたんですが、あなたはどう感じましたか?」みたいな感じで、問うていくというか、そういうのが芸術やってて面白いところですよね。
texiyama 全然違った……(笑)
tofubeats 曲に対する思い入れみたいなものとか、自分の全体の行動を定義するアツさみたいなのは、texiyamaさんくらいアツい感じでやってしまうと、逆に死んじゃうんですよ。さっき話したように曲を聞いてくれるみんなの思い入れと、自分の思い入れみたいなものって一致しないので。「水星」でもすごい沢山の人にカバーしてもらった時に色々悩んで、曲に思い入れを込めすぎるのは危険な行為だなって思うんですよね。あと、自分の思い入れみたいなものとか意図って、お客さんに分からないようにしないと自分で歌っていけないっていうのもある。でもその中でスケプタの言う「Man」に近づいてくにはどうすればいいかっていうと、それは誠実にやっていくってことだと思うんですよね。
この誠実にやるっていう話はよくいってるんですけど、これはお客さんを馬鹿にしないっていうことでもある。「大都会と砂丘」ていうのはお客さんを馬鹿にしないやり方だと思うんですよね。フロアは2つあるけど、お客さんが行きたいイベントに能動的に足を運んでくれるんじゃないかっていう信頼がある。逆に広告を100回打たないとお客さんこないだろうみたいなのは、お客さんに対して優しすぎる気もしますよね。でも日本では優しすぎることが是とされているから、難しいところもあるんですが。
texiyama そういうのって、さっきの括弧つきのメジャーのアーティストとしての「tofubeats」の役割があって、そういうのを演じさせようとしている圧力があるんじゃないかなと思うんですよね。
tofubeats そこは演じているとか、格好つけているとかっていうのとはちょっと違うんですよね。自分は格好付けているっていうのが本質的に無理(笑)。例えば、東京のトップDJとかは、曲のキメみたいなところで、手をパーンって挙げるパフォーマンスをするんですけど、それがめっちゃ様になるんです。でもじゃあ僕がそれをやるってのはかなり難しい(笑)。そういう手をパーンとやってる自分……みたいな視点がどうしても入っちゃう。でも結局メジャーでいることって、括弧つきの「tofubeats」をやらせていただいてますっていう楽しさはあるんですよね。だから砂丘とかでプレイする方が実は恥ずかしかったりする。
松本 その恥ずかしさっていうのは、「これが素のtofubeatsだ」ていう体になってしまうからなんですかね。
tofubeats あーこいつ、今好きなものをやっているなみたいな。だから僕は砂丘の時ってステージでめっちゃ笑ってたんですよね。
横山 自分はtofubeatsの写真をいつも撮ってるんですけど、いつものDJセットの時と比べて、砂丘の日はずっとニヤニヤしててめちゃくちゃ写真とりにくかったんですよ。1曲かけるごとにずっとニヤニヤしてて。あと、砂丘の日って普段と違って1曲がめちゃくちゃ長いのよ。あんまり曲数はなかったけど。1曲ずつちゃんと聞かせながら、曲間にめっちゃエフェクトかけて、何やるかわからないようにして次の曲にいく。で、ニヤニヤしてる。あとあの日はあんまり曲も選んでなかったよね。多分かけるものが決まってるからだと思うんだけど。でもいきなり何が起こるかわからない感じがあって、スゴい楽しいステージだった。
tofubeats 選曲としては、砂丘は自分の曲ばっかりでしたし、最後にチェリボさんが待ってるのはわかってる。で、道もかけるぞってなったら、人の曲をかけられる時間は2〜3曲くらいしかないなみたいな感じだったんですよね。
横山 一番最初の方に音止まってなかった? 「あ、tofubeatsいきなりしくってるやん!」と思ったんだけど、聞いてたらあのあのタイミングが良くて。それまでハウスっぽい感じでオンビートで踊れる感じだったんだけど、みんなフラフラしはじめてざわつきはじめる感じというか。あれがあの日のtofubeatsをtexiyamaが良かったって言っているところの一番大事な部分というか、砂丘に足をとられたみたいなね。
tofubeats あれはミスったんじゃなくて、僕の中では続いてるんですよ(笑)。表と裏が変わるってだけで。外したかったんで、最初に4つ打ちじゃないやつをかけました。あそこで4つ打ちのままで行ける人たちが見たかったっていうのと、最初の曲をかけた反応を見て「あ、今日は『水星』聞きたい人いるぞ」と思って、そっから俺はもうめっちゃ面白いぞみたいな。だからニヤニヤしていたという(笑)
横山 僕は水星っぽかったというか、すげー楽しかった。聞きながら「星の王子様」っぽいとおもったんだよね(笑)
tofubeats どういうことですか(笑)
横山 まずシンセがふわふわしている曲がいっぱい流れて、しかも場所は砂丘でしょ。しかも1曲ずつ長尺でちゃんと聞かせていくから、すごい物語っぽかったとおもった。それでこれは「星の王子様」じゃん!と。
tofubeats これからはフル尺でやっていこうと思います……。DJの時って僕はハウスとかもどんどん繋いじゃうんですけど、それは全部フル尺でかけると自分が高まりすぎちゃうからなんですよね。だから僕のDJの基本姿勢として、後半になって高まるにつれてフル尺になっていくんですよ。砂丘の日はそういう意味ではダダ漏れだったかもしれないですね。自分の曲の聞かせたいところを、全部聞かせちゃっているわけですから。
texiyama 一緒に見てた昔の同級生がいて、そいつはまったくコンテクストを共有していないんですけど、めっちゃ楽しんでた。それってどういうことなんだろうと。彼はtofubeatsに思い入れがあるわけじゃないし、コンテクストを知っているわけじゃないけど、とにかくめっちゃよかったと。普通だったら「水星」聞きたい人向けに何曲、あれが好きそうな人向けに何曲ってなりそうだけど、そういうマネジメントなしで全体として成り立っているステージで、すごい楽しそうにプレイしてたし、これは自在だなと思ったんですよね。
tofubeats 社長が自分を砂丘側に割り振った時に、これは「マネジメントみたいなのをしなくていいってことだな」と理解してたんですよね。例えばもし大都会だったらシングル曲は全部流そうってなるとおもう。自分は普段のライブではほとんどそうしてるんですよね。でもそうしなくていいよっていうのがあるから、砂丘にしたんだろうなと。
でも、衆目を気にせず自分のやりたいことを貫くというか、自分は本当に誰かに気を使わずに音楽を作ったことがあるのかっていうのがここ半年くらいの悩みなんですよね。よくインディーズで好きなことやればいいじゃんみたいなのあるじゃないですか。たまに自分もJ-POPっぽくない曲作りたいなと思うけど、じゃあその時の自分らしさってなんなのかと。そういう高校生みたいな悩みもあるんですよね。今新しいアルバム作らなきゃいけないんですけど、アルバム作る時って必ず自分の音源を全部聞き直すんですよ。それで自分らしさってなんだろうみたいなのを考える。それで復習するから、また自分らしさが出て来るみたいな。昔のインタビューとかも読み直しますし。制作の時って毎回本当に受験勉強みたいな感じですよ。日能研に入り直した気持ち(笑)
texiyama 社長は砂丘の日のステージをどう思ってるんですか。
tofubeats 社長は分かってますよね。
tomad 今までのマルチネイベントだと、tofubetasがピークのところをやらざるをえなかったというか……。
tofubeats だから今回の砂丘は、社長からのボーナスだとおもったんですよ。今までのイベントでメインタイムのところを担ってくれてありがとう的な(笑)
tomad それもありつつ、それに頼りっきりになる他のトラックメーカーもありつつというかね。tofubeatsもタイミング的に、砂丘っぽい、4つ打ちっぽいハウスがやりたい時期なのかなというのもあったし。それこそVisionとか他のイベントだったら「水星」とか「朝まで〜」をやらなかきゃいけない状況も分かってるので。
tofubeats どっちも砂丘もVisionもどっちもやるってことが、「Man」だと思うんですよね。どちらかだけじゃダメだし、誠実さっていうのは両方やってるから分かるみたいな。Visionだけやってたら「こいつは本当にtofubeats……なのか?」っていう風に疑ってしまうかもしれないけど、両方やってるからこれはこいつだって分かる。それが両輪になってるから、どっちかを捨てちゃうとダメなんですよねそういう意味で、てぃーやまさんのいう「あの時は自在だった」という限定的な言い方を真に受けてしまうと、僕としては支障が出てしまう(笑)。正直DJセットの日の方が楽しいって時もありますけど、それは単にプレッシャーが低いって言うオペレーションの問題かもしれないですね。Liveだと歌わなきゃいけないから喉を気にしなきゃいけないし。その時にトラックメーカーのくせに喉を気にしている自分、一体何やってるんだろうと思うんですけど(笑)
松本 その両方やることが大事っていうのは、さっき話していた自分の曲に対する思い入れと、お客さんの思い入れは違うっていう話と近い話なんでしょうか。全て一致させるのではなくて、ズレを残さないといけないみたいな。
tofubeats そうですね。あと、まるっきりどっちかに振り切れてしまった時に、可能性がなくなっちゃうんじゃないかなという懸念はありますね。あと、面白いっていうのは、突っ込みどころが用意されていることだと思うんですよね。ズレというか、ツッコミどころを作っておかないと自分は楽しめないというか、1つのものになりきって楽しむっていうのが自分はできないんだなと。
「機運と被劇」とは何だったのかtexiyama 演じるということでいうと、君(松本)は『Rhetorica#03』で「機運と被劇」という論考を書いていますが、どうなんですか。
松本 あの原稿で話したかったのはそういうことなんですよね。ズレみたいなのを意識的に作り出して、逆説的に自分をキープしていったり、余裕みたいなものを生み出したりっていう。今日のラジオではtexiyamaがアツい想いを脱臼させられ続けているわけですが、そもそもステージと言う場所って、誤読を誘発させる場所なんですよね。
tofubeats それが目当てなわけですからね。あのRhetorica#03の「機運と被劇」を読んで聞きたかったんですけど、松本さんは自分の推しメンについてはどう思ってるんですか? 僕は自分で役を定義できますけど、アイドルって役が降ってくるわけじゃないですか。しかもブログとかTwitterもあって、普段の生活もその役と地続きになっていないといけないわけですよね。僕みたいにこのステージではこの役を演じるみたいなのを自分で決められないわけじゃないですか。それに気づいてから、あ、これはしんどいなとおもって、自分は特定のアイドルをガッと推せなくなったんですよね。
松本 いや〜推しメンは、特にはないですね(編注:本当かは不明)
tofubeats なるほど。あの原稿からだと、松本さんが今みたいな話で自分の本音をオブラートに包んでいる方なのか、形式的にアイドルを見ている方なのかっていうのはわからなかったんですよね。客席から声を荒げて推しメンの名前を叫んだりとか、なんか松本さんはアイドルに対してそういう没入があるのかないのかっていうのが気になったんですよ。
松本 いや、それはありますよ。それでいうと、例えばハロー(編注:ハロー!プロジェクト)の場合はまったく動かないで、地蔵で見ますね。ジャンル的な物があると思うんですけど、あれは黙って目で追いかけてる時の方が移入してる感じがするんですよね。他のもっと地下っぽいもの(編注:地下アイドル)って、自分がステージに否応なく巻き込まれていく感じがするんですよね。目とか合うし。それってステージからも、周囲からも見られるわけで、何もしないと不自然なんですよ。そういう時は叫びますし……。
tofubeats なんか本質的には昔の僕と同じ部分を持っている人なんじゃないかと思ったんですよね。アイドルに没入して、この子はどういう気分でやってるんだろうって考えたりしないのかなっていう。この原稿からだとそういったところが見えてこないじゃないですか!
texiyama 彼は本当にズルいんですよ。ありえない。
松本 いや〜実存を語れる物語形式ってなんだろうっていうのがあって。例えば置かれている境遇にどうやって抗っていけばいいかというのが実存の問題だとした時に、家庭、社会、とかいろいろあるけど、個人的には身体がついていかないみたいなのがすごい重要な問題で、そのことにコミットさせてくれるのはなんだろうっていうとアイドルなんですよね……。
tofubeats なるほど。
tomad いや、ていうかこの原稿(「機運と被劇」)短いんですよね。これ、クラブの話とアイドルの話を分けるっていう選択はなかったんですか。取ってつけたようにアイドルの話が始まって、これからっていう時に唐突に終わるみたいな感じがしたんですが(笑)
tofubeats うん。ここは、僕も読んで不完全燃焼だったんすよ。
tomad なんか、クラブ(マルチネ)から出発してアイドルに行くぞ!っていうか、なんかジャンプ台として使われてるのかな、みたいなのもあって(笑)。ここにも書いてるけどクラブのやり方とアイドルのやり方っていうのは違うって話で、もうちょっとアイドルの方のネタを深められる話とかもあるんじゃないかなと。クラブとアイドルはつなげたかったの?
松本 うん。ハコの話みたいなのはうまくつながるのかなと思ってたけど、いかなかったですね…。
tomad もうちょっとやれそうですよね。
松本 いやあ……でも、誰もこの原稿待ってないですよ。
tomad いや、レトリカの中にはいないかもしれないけど、外にはいると思いますよ。
tofubeats うん。僕は待ってますよ。
tomad なんかこの原稿は振りっぽい感じはあるよね。もっとやれると思うんで、よろしくお願いします!
松本 ──────。
[2016年10月18日──於Red Bull Studios Tokyo]